fujinosekaic’s 世界史授業備忘録

世界史教員生活30年記念

6/21@神戸大附属)公開授業/文部科学省指定研究開発に係る第1回運営指導委員会での報告

f:id:fujinosekaic:20190622025239j:image授業で使用した動画

https://video.wixstatic.com/video/d3aa22_b3acc0bfffc54f68be9817b82dbe6170/720p/mp4/file.mp4


4.​単元全体の学習指導観

(1)​単元観…現行学習指導要領にもあるように、時期や年代,推移,比較,相互の関連や現在とのつながりなどを意識し、概念などを活用して多面的・多角的に考察し,歴史に見られる課題を把握し解決に向けての方策を今後も考えていきたい。次期指導要領のD(第3部グローバル化と私たち)の学習が充実するように,学年当初から年間指導計画に基づいて,内容のつながりや関連性に留意した指導計画の作成を行うことが大切である。また、東京(江戸)との関連を常に意識し、東京の高校生が考える「歴史と今日的課題」も重要な要素である。

 

(2) 指導観…限られた時間の中での授業内容の構成を考える必要があるが、その中でも授業はできるだけ「楽しく」させる工夫と努力が大切である。様々なパターンの学習活動を提供しながら生徒に単に「楽をさせる」様な授業は避けるべきである。特に、プリント学習は「穴だけ埋めておけばOKである」とか、授業そのものも「答え合わせ」に終始するものになってしまう可能性がある中で、教員側としては学習単元の進行のみは比較的スムースに行ける。もしくは生徒にとってもプリント授業は「学習した気分になる」ことだけは可能である。しかし、それでいいのだろうかという懸念がある。少なくとも大きな流れの中で学ぶ意味と歴史的な順番を意識した単元設定も必要ではないだろうかと考える。また、その生徒間相互の影響力も考えるべきである。そのため、過去と現在のリンクを意識しながら、常に生徒の興味をそそるような話を入れるように努めてきた。全体にも発問し、その答えを利用しながら授業を進めていくことを目指すが、答えが返ってこない場合も多々あることから、指名して発問、もしくはノートやプリントにコメントもさせる。また、国際企画にも多く参加していることから、自分の考えをまとめ、それを共有することで表現方法を学ぶ楽しさを経験している生徒も活用していきたい。

 

(3)​生徒観…総合学科(実施クラスA25:男子9、女子31:含む留学生1伊より合計40)のほぼ女子校(全校では8割)で、世界史Aの講座を受講している生徒は基本的に世界史を受験で使うことは考えておらず、「世界史」に対しても強い関心を持っていない、もしくは持てない生徒が大半である。また、高校入試段階までに自己肯定感が高められてこなかった生徒が少なくない中で、「暗記中心」の知識注入主義的な授業を押し付けられてきた(それでなければ高校入試で合格できない)。その結果、学習活動が知識量であると誤解をしている生徒が少なくない中で、学習に意欲が欠けている生徒も少なくない。特に、英語や数学が不得意もしくは嫌いな生徒が存在する。しかし、都立では珍しいユネスコスクールでもあり、外務省:Jenesysでの受け入れや姉妹校(豪、韓、台湾)との相互訪問、国際ボランティア(インドネシアでの孤児院での活動)、長期留学(米、豪など)や文科省:トビタテ留学(2015より4分野全てに20名ほどが選抜)、学校設定科目「国際ボランティア」(難民、貧困、食糧、Gender/LGBT、環境問題を学び、それらに対して高校生自身が自発的に何ができるかを考える授業)などの「国際企画」に関与する生徒がいることで実体験としても「世界」と繋がっている生徒が少なくない公立高校である。

 

(4)​教材観…「プリント学習」という名前があるように、プリント書き込み型授業が広まってきているがそこには限界(配布の乱雑さと管理力不足=紛失する)があるのではないだろうか。プリント至上主義的な空気も蔓延している。むしろそれ中心での授業構成には反対である。できるだけ共通教材である①教科書を活用する中で、②映像教材と補足資料としてのプリント、③黒板=Graphic-ationとして捉えnotable takingとしてノートすべきかどうかの判断力を高めることの3本柱で授業を進めていくことが肝要と考える。プリントは基本的には思考の整理と資料の読み取りのヒント、記述や表現力向上の為のスペース提供に使用を限定すべきであろう。また、煩雑になることからできるだけそれの回収もすべきではない。生徒の管理能力には限界がある。絶対視はしないが、生徒にはお互いのプリントやノートを相互に見ることやPPX等で取り込み、生徒の意見や「作品」を紹介することも推奨している。また、その結果生徒間の相互評価と学力「成績」の相関関係を理解させている。きちんと取り組んでいる生徒は定期テストでも良い成績を残すのである。ここには明確な相関がある。更に 試験前の一夜漬けではダメだということを理解させる。むしろ、ノー勉で<試験の準備をしなくて:一夜漬けなどが典型的」>も普段からちゃんとやっていればある程度の成績は取れることを理解させる。むしろ、試験前だけの勉強で何とかなる授業ってさみしくないですか?真の授業という意味があると考えることができるだろうか。

 

(5)授業観…日常生活や身近な存在に見られるもの(RockやPopsの音楽やNews報道、映画、漫画、イラスト、絵画や最近ならRPGなどのゲームやアニメーション:個人的には受け入れがたいが)の読み取りを通して,時間的な推移や空間的な結び付きの中で歴史と関係がある事を理解させたい。資料(新聞記事や報道)に基づいて歴史が叙述されていることを理解できるように、様々な事象を視野に入れて構想していきたい。単に歴史語句を機械的に覚えるのではなく、その後の授業でも活用できるCritical thinking:批評的感覚、疑問や質問、話し合いを常に持たせる機会を提供すべきである。教科書での地図の読み取り、距離の測定、書き足し(教科書の地図では領域的に不十分で残念な地図が多い=あと1cm拡大してくれたらどれだけ充実したものになる地図が少なくない!)や教科書巻末の年表や索引の活用、本文以外の説明文や解説文(はみ出し①など)の評価や検証(中には疑問の残る表現も少なくない)と検討活動をすることで、歴史に興味関心をもたせることができるだろう。また、形だけのアクティブラーニングには教育的な効果からも反対である。作業とそれに伴う机や生徒の移動が多く、生徒も教師も「やった気になって終わり」のケースが多いのは気になる。一斉授業からの反省からとはいえ、単に生徒を動かすだけで教員は教壇からすら降りることなく=机間巡視もしないなど、内容の薄いものが少なくない。また、予定調和的な結論への誘導、知識ある一部生徒だけが授業の中心であるケースもこれまで見学させていただいた授業にはあったが、教室での生徒相互の教育力やお互いの成長を無視した授業はできるだけ避けたいところである。

5.​本時

(1)​本時の目標:

​「これまでの振り返りとこれからの予告:預言と予言:そこ(Orient)を通った奴らは誰」を考える

東西問題(冷戦という意味では無い=むしろ東西交渉史的)の始まりOriginは何?誰?なぜ?

そこに日本は同関連してきたか? 「スフィンクスと侍」や「長州5」、諭吉たちは何を見たか。

既習事項:A―Eで示した部分=中学校段階で学んでいる部分(文明と宗教、言語)や、Tokyo2020を踏まえオリンピック(ギリシアとその周辺:ペルシャとの関係や今日的課題である中東紛争)と、それ以降であるF-H((今後学習予定である現代史)との関係を確認する。更に最近のNewsや報道(イラン、香港など)との関連を知り、気づく。これらが教科書の中でどのように記述されているかを確認するとともに、自分が興味関心ある事項をまとめる。今後の学習計画の「予告」と共に、指導計画も生徒自身が把握することで、今後の学習の参考にする。またこれまでの学習を振りかえっての自己評価を生徒自身でも考えていく機会を与える。

 

(2)​本時の展開

 
学習の流れ
生徒の活動 
指導上の留意点 評価
①導入
【10分】

・これまでの振り返りののちに

映像(4分30秒)を見る

・映像から既習事項の確認とオリエントの問題点について考察する。

東西問題(冷戦という意味では無い=むしろ東西交渉史的内容)

振り返りと予告:預言と予言 

(Orient)を通ったのは誰だ?
・ 導入については、生徒の能力にもよるが、今回の授業の要(つかみ)となる部分でもあり、集中する。
・ 生徒達の感性に訴える楽曲を使う
幼少期シリアで育ったバンドメンバー(高校は近隣の私学ICU)の情報を知る

・動画と追加資料などを通じて考察し、情報を生徒相互でも共有する
ノートや唯一の共通教材である教科書所持の確認

机上の整理と参加の姿勢

洞察力の訓練 

探し出す力の再確認

Eastern Impact とWestern Impactと

「ヴェトナムの衝撃」

に連なる歴史展開

展開
【30分】

・プリント配布(上記A~H)とプリントの構造の解説と学習活動の説明をする =10分 

・再度映像を見る= 5分

・上記AからHは教科書のどこに出ているかの確認=15分

資料読み取り(教科書の記述)

・なぜこの地域を学ばなければいけないのか、現代史に連なる部分でこのオリエントが大切である事について考える。

資料を見ながら再度映像をみて各事項の推移における人物の功績などについて再確認しその意味を理解する。
・ AからHの項目を探し出せるか。
・ 教科書に記載がある事項の確認
年表、地図、本文、はみ出し記載などにもある事を知る。気が付くかどうか!

・ 映像を見ながらプリントで解説を聞く。映像だけでは追い切れない部分を確認する。
・ 発問に対する生徒の答えや他生徒の発言を聞き、それを利用しながら進める。
画像資料や文献などのさまざまな資料の読み取りをする中で、集中してテーマと関連するキーワード(登場人物、歴史用語語句)と関係性のあるシーンを発見する(洞察力)。上記テーマがどのように教科書に記述されているかの確認
・教えられるという姿勢だけではなく、積極的に学ぶ姿勢を持つ。

・調べる項目が8個=調べる時間は各項目2分程度しかない事に気が付くか。

・映像もプリントもあえて少し複雑、多層性を持って作ってあることを理解し、それを把握できるように、生徒相互でも協力も必要。

・作業中でも出来るだけ発言を即す

・発言できなくても自分の考えや意見をまとめる=特に印象に残った事を2つ記述させる。
③まとめ
【10分】①と②の記入 意見

・ 本時の内容をまとめ、説明の不足部分(教科書には出てない事)などの補足説明。必要ならば種明かしもあり
・ 25枚の画像の構成の説明
Orientを通った人々は?

西から東へ

東から西へ

について確認する。
・ 次回の授業で何を学ぶかを確認。
(ヨーロッパ=クリスチャン社会VSアラブ=イスラム社会:中東問題の根源)についても考える。

・オリエントの地域的の特徴を理解し、のちにはアジア全域に概念拡大=極東;中国や日本までとの関係性を確認する

 

・関連性と意義からもなぜ学ぶかを生徒自身が考える。

・プリント記入とその確認
・ワークシートの確認とまとめ。混乱に拍車のかかる人種間対立と宗教の関連から外国人労働者問題(ガストアルバイター:独とトルコ)の根源やシリア難民問題をも考える姿勢=SDGsとの関係性の把握、も持てるかも必要によってはアドバイスする。

・プリント回収の円滑化
 

(3)​板書計画 (多少強引なこじつけ:ダジャレ的な部分もあるのは「お楽しみ」ということでお許しを)

スクリーン
A:アレクサンドロス ペルシア クレオパトラとイエス
B:禿のカエサルからPAX Romana「帝国の拡大と分裂」

C:中国Chinaとの関係 大秦国王安敦:MAAのお使いtoベトナム 

実はキリスト、クレオパトラカエサルもC 同時期でもある

D:砂漠と死海 聖地と聖地と十字軍の地 SyriaとPersiaは  

E:イギリスの政策と東方問題:英国と極東と開国(シュリーマン47歳)

F:英対フランス スフィンクスとナポレオンと侍~長州ファイブ

G:PAX Great Britainと日英同盟と日露 WW Grande Guerre  

H:顰蹙漫画家or HKG(PEK:北京政府への抵抗) History
 

7.​指導にあたっての工夫

(1)​授業形態の工夫…​映像とプリントを中心とした授業を展開することで、近現代史の学習に割ける時間を確保する。少人数で話し合う、もしくは意見を自分でまとめる時間を取り入れる。既習学習事項とそれ以後の学習計画との関係を考える機会を設ける。また、この学習経験は以後の機会でも活用できる。

 

(2)​指導方法の工夫…​発問を多く取り入れ、教科書等を調べることで生徒が自発的に内容を理解するように促す。更に自発的な発問や疑問を持たせるように促す。「世界の為に何かをしたい」と思う生徒が少なくないこともあり、単純に知識量を増やす指導では無く、興味関心を深め、彼らなりの充足感をもたらすように指導を工夫する。

 

(3)​教材の工夫…​映像資料を活用することによって理解度と臨場感が高まると考えられるため、ICT機器や実物資料を積極的に用いることによって生徒の理解と実感を促す。また、不足部分は配布プリント等でも補う。できるだけ生徒達の興味関心に近いものから教材を作成する。いくら映像教材が良いとはいえその功罪はある。また、いくら判り易い物を示すとはいえあまりにも安直な教材は失礼である。できれば教員が一捻りしたオリジナルな物、できれば教員本人がどこかで関連(登場)していると更に良い。

 

昨年発表されたものを参考に、本校の現状を踏まえて再構成した。特に年間授業の総時間数の課題は大きい。本単元は上記の太字の範囲A「 歴史の扉」について焦点をあてたものであり、中学での既習事項の確認と今後の学習への土台となるものである。近現代以降の歴史しか学ばない問題点や、その反省から出た「遡り型」でもなく、随時「D第三部のグローバル化と私達」やそれ以外の「ABC」領域との関連性にも触れる「串刺し型」の展開の大切さも提言する。全ての時間は相互にも関連性を持っているものであり、本時はその前後の授業とともに、全体では網目webのように構成されている歴史にも関連していることにきづいて欲しい。Dの課題はABC全てに関係しており、根本的な原因はどこにあるかに気づけるかという事である。例えばアフリカや中東の問題は多くは欧米に責任がある事をこの授業以後に学んでいくことになる。翻ってアジアはどうであろうか? なお、年間の指導計画等は報告者の個人ブログ等に掲載する。f:id:fujinosekaic:20190622025239j:image